おもいおもい

仕事のこと、家族のこと、気付いたことなどをおもいおもいに綴ります。

掃きだめの部署を作ったらそこから会社が崩壊した話

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 ホットエントリに上がっていた以下の記事を読んでいて、丁度似たような事例に直面した事があったので書いてみました。

blog.tinect.jp

 

1.優秀な配送センター

何十店舗もの小売店を展開している当社では、商品配送を効率的に行う為に配送センターを持っています。数名の社員が何十人ものアルバイトに指示を出し、店舗に必要な商品を必要な数だけ出荷します。アルバイトの作業はさほど難しくありません。端末に表示される商品名と数量を確認し、台車に入れる。基本はこれだけです。単純作業と言っていいでしょう。

一方で社員の仕事は少し複雑です。その日の入荷量と出荷量を確認し、アルバイトの配置を決め、時間当たりの入出荷数が一定の基準をクリア出来るようにコントロールします。入荷のトラックが遅れたり、予定していたアルバイトが欠勤したりといったトラブルにも柔軟に対応出来るだけの情況判断力が求められます。サッカーの司令塔のような役割です。

数人の優秀な社員と、大量の作業員によって構成されたこの配送センター。指標となる日々の入出荷率も安定して90%を超えており、「安心して会社の物流を任せられる」と評判の部署でした。しかしこの後、この配送センターが徐々に「掃きだめ」と化していくのです。

 

 

2.出来ない社員をどう扱うべきか?

「仕事の出来ない社員」というのはどの会社、どの部署にも存在します。そもそも仕事の出来る・出来ないというのは相対的な評価ですので、一つの部署内で何らかの基準に沿って人を評価すれば、上位と下位が存在するのは当然です。前出の記事にもありますが、「仕事の出来ない人」がボトルネックであると感じる事もまた当然の流れでしょう。マネージャーのスキルが高い部署であれば、個人のパフォーマンスではなく仕事の「仕組み」で問題解決を図るので問題ないのですが、マネジメント能力の低いマネージャーにはそれが出来ません。彼らは「仕事の出来ない社員を自部署から追い出す」ことで部署のパフォーマンスを上げようとしたのです。そして人事部に対しての説得に奔走します。「その人がいかに仕事が出来ないのか、どれだけ部署の迷惑になっているのか、どれだけ会社の数字に悪影響を及ぼしているか」を熱心に訴え続けました。最初は「部署内で何とか解決しろ」と言っていた人事部長も次第に問題意識を持ち始め、人事異動による解決を検討し始めます。

 

3.ターゲットにされた配送センター

悩みに悩んだ末に、人事部長が白羽の矢を立てたのは配送センターでした。数人の優秀な社員と、大量の作業員。仕事の出来ない社員であっても難易度の低いアルバイトと同様の仕事であれば、頭数として数えられると考えたのです。アルバイトの雇用も難しい昨今の事情も加味した上での、一挙両得を狙った策でした。年に2回行われる人事異動のたびに「仕事の出来ない社員」が配送センターに送り込まれていきました。

「仕事が出来ない社員」が送り込まれた配送センターも、最初は問題なく稼動していました。指示を出すのは仕事の出来る社員。仕事の出来ない社員はアルバイトと同様の仕事と、それにプラスして簡単な書類作成などの仕事が任されていました。他の部署では「仕事が出来ない」と評価されていた社員も、能力に見合った仕事が与えられる事でやりがいを持って仕事に向き合うようになっていました。一連の流れを受け、会社はこの人事を「これまでお荷物だった社員が活躍出来る場所を創出した成功事例」と捉えるようになっていきました。

 

4.崩壊は内部から始まった

「配送センター=仕事の出来ない社員の活躍の場」という評価がある程度定着した頃、配送センターでは長年勤めていたアルバイトの退職が立て続けに起こっていました。表向きは「一身上の都合」との事でしたが、仲の良い人が連れ立って辞めてく様子に違和感を感じる社員もいました。

仕事の出来るアルバイトが辞めた事と、雇用が難しい状況が重なり、現場の業務負荷は次第に大きくなっていきました。そんな中、また「辞めたい」と申し出るアルバイトが現れました。さすがに何かあると感じた人事部長は彼にヒアリングを行いました。そこで彼は職場の現状についてこう漏らしたのです。

 

「社員の中に、明らかに仕事の出来ない人達がいる。その人達の指示はメチャクチャで、言うとおりに仕事をするといつまでたっても仕事が終わらない。正直、《彼らの下ではこれ以上働けない。》」

 

人事部長は驚きました。アルバイトと同等の仕事を与えているはずの社員がアルバイトに指示を出していた事に。そしてすぐさまセンター長に確認しました。センター長はさらりと答えました。「はい、確かに彼らが現場で指示を出す事はあります。それはこちらからお願いした訳ではありません。しかし、アルバイトにとって、彼らはまがいなりにも社員なのです。仕事が出来る・出来ないは関係なく、“社員という立場を保証された人”、“自分達よりも上位の人”という認識が根底にあるのです。当然、わからない事があれば質問もしますし、指示も仰ぎます。仕事が出来るかどうかではなく、《自分達よりも待遇がいいのだから、その待遇に見合った仕事をして当然だ》と考えているのです。」「もちろん、そうならないよう双方に指導はしますし、状況を理解して適切に対応してくれるアルバイトもいます。しかし、心にしこりのようなものは残るようです。“なぜ同じ仕事しか出来ないのに待遇はこんなにも違うのか”と。先日退職したベテランの方もそういった想いが払拭出来ずに退職に至ったのではないでしょうか。」

状況は飲み込めた人事部長。しかし、もともと他の部署から弾き出された社員をすぐに配置転換させるというのは難しく、センター長に現状維持をお願いする他ありませんでした。

 

4.仕事が出来る人々の反乱

 ひとまず現状維持の形をとりながら、対策を練ることにした人事部長ですが、中々代案が浮かびません。辞めたアルバイトの補充もままならず、社員の残業でカバーするのが精一杯です。そんな中、販売店から悲鳴のようなクレームが次々舞い込んできました。

 

「商品が店舗に届きません!」「欠品が多すぎで売場が維持出来ません!」

 

時期は年末。どのお店もしっかりと売場を作って年末商戦に挑もうという大事な時期です。そんな時期に、商品の配送遅延が頻発しているというのです。データを確認すると、配送センターの出荷率はこれまで平均90%以上だったものが、30%台にまで落ち込んでいたのです。これでは店舗の棚がガラガラなるのも当然です。全社的な大問題の発生を聞きつけた人事部長はすぐさま配送センターに飛んで行きました。

配送センターでは丁度緊急のミーティングが行われていました。そこで人事部長が見たものは、何とか体勢を立て直そうと対策案を提示するセンター長と、それを憮然とした態度で「無理です。」「出来ません。」とはねつける「仕事のできる社員」の姿でした。

彼らの言い分はこうでした。「アルバイトが足りず、業務負荷が増えている。にもかかわらず、仕事の出来ない社員ばかり送られてくる。アルバイトに指示を出しながら自分達も現場で作業し、更には彼ら(仕事のできない社員)の尻拭いまでさせられている。こんな状態でどう仕事を回せというのか。」

疑問に思った人事部長が確認しました。「いや、彼ら(仕事が出来ない社員)も十分にアルバイトとしての作業はしているはずでは?アルバイトの不足分を補うだけの頭数はそろっているだろう。」

その問いかけに対して一人の社員が呆れ顔で答えました。「部長、彼らがアルバイトと同等レベルだと本気で思っているんですか?彼らが1日掛かる作業も、アルバイトにお願いすれば3時間で終わります。仕事の精度もアルバイト以下なので、間違いが無いかのチェックを追加で行わなければなりません。本社からそういう社員が投入されるたびにこちらの業務負荷は増大しているんです。もうこれ以上は持ちこたえられません。あとは会社で何とかしてください。」またこうも言っていました。「そもそも何故彼らを社員として雇用し続けるのかわかりません。アルバイト以下の仕事しか出来ない彼らに、私達とそう変わらない給与を支払う理由はありませんよね?同じような給与を払うのであれば、それに見合った仕事をさせてください。まぁ無理でしょうけど。」

業務が滞る中、それを解決する手立ても従業員のモチベーションも無い。配送センターは完全に崩壊してしまいました。

そしてこのとき、人事部長はやっと「仕事の出来ない社員の活躍の場」だと思っていた配送センターの本当の姿に気付きました。

 

5.誰がコストを払っていたのか

「仕事の出来ない社員に見合った仕事の場を作る。」という目的で実施された施策でしたが、そこには人事部長も気付かない膨大なコストが発生していました。ここでいうコストとは『労働』の事であり、そのコストを負担していたのは仕事の出来る社員とアルバイトの方々でした。そしてその事に気付かずに成功事例だと勘違いしてしまったのは重大な経営ミスだと言えるでしょう。

振り返って見ると、問題は「必要なコストの先送り」をしてしまった事でしょう。自分の部署から仕事の出来ない社員を放出した部署は、それに掛かるコストを他の部署に押し付けたに過ぎません。「アルバイトと同等の仕事なら出来るだろう。」と判断した人事部長も支払っている人件費と与える仕事が釣り合うよう、適切な調整をしませんでした。そうやってコストの先送りをした結果、時給に見合った働きをしてくれていたアルバイトは会社を去り、仕事の出来る社員は完全にモチベーションを失ってしまったのです。

 

 おわりに

以上が当社で実際に起きた事例です。

配送センターのその後ですが、崩壊から7ヶ月が経過した今もなお、建て直しは完了していません。センター長や主要な社員数名が会社を去り、アルバイトの退職もまだ続きそうです。本社や店舗から仕事の出来る社員が投入さましたが、物流業務を完全に把握するにはまだ時間が掛かるでしょう。そうそう、面白い(?)事に「仕事の出来ない社員」は誰一人として会社を去る事無く、今日も元気に業務に励んでいます。 

 

 前述の記事でも紹介されていた「ザ・ゴール」ですが、生産管理についてストーリー仕立てで書かれた、読み物としても面白い良書です。

ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か

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また続編の「ザ・ゴール2」では生産管理の考え方をマーケティングや販売・在庫管理に取り入れる方法がわかり易く紹介されています。こちらもおすすめです。  

ザ・ゴール 2 ― 思考プロセス

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